昨年度までにすでに完成済みであった、グレリン産生細胞腫瘍化トランスジェニックマウス(岩倉ら、Am J Physiol Endocrinol Metab 2009年)の胃に発生したグレリン産生腫瘍を採取し、コラゲナーゼ、ディスパーゼを用いて、消化、個々の細胞に分離した後、10%FBS入りDMEMを用いて37℃10%CO2の条件下で培養した。混在する間葉系細胞を除去した後、96 wellを用いて限界希釈法により、サブクローニングした。樹立した細胞株は、これまでにグレリン産生が報告されていたヒト甲状腺髄様癌由来のTT細胞株と比較して、約5000倍という高いグレリン産生能を示した。グレリンは、その三番目のセリン残基のオクタン酸修飾を有し、この修飾がグレリン受容体GHS-Rを介した生理活性発揮には必須となっている。今回樹立した細胞株は、このオクタン酸修飾に関わるGhrelin O-acyltransferase (GOAT)を発現しており、'実際に産生されたオクタン酸修飾を受けたグレリン産生を確認した。また、グレリンのプロッセッシングに関わるプロホルモンコンバターゼ1/3の発現も認められ、プロッセッシングに問題が無いことも確認した。実際に、nudeマウスの皮下へ移植したところ、血中グレリン濃度は上昇し、摂食が刺激された。また、ヒトや動物を用いた研究である程度確立している、インスリンおよびソマトスタチンによるグレリン分泌抑制が、この細胞を用いたin vitroでの分泌実験で、維持されていることも確認した。今回樹立に成功した細胞は、世界で初めてのグレリン分泌細胞由来の細胞株であり、高いグレリン産生能、グレリンのプロセッシング、アシル化機構、少なくともインスリン、ソマトスタチンによる分泌調節機構を維持しており、グレリン産生機構、分泌調節機構の解明のためのin vitroの研究ツールとなることが期待される。
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