トランスフェリン受容体2(transferrin receptor 2 : TfR2)は、細胞内鉄取り込み分子であるトランスフェリン受容体1(transferrin receptor 1 : TfR1)と相同性を持つものの、その機能は単なる鉄取り込みではなく、生体内鉄代謝調節因子であるヘプシジンの発現調節への関与の可能性が注目されているが詳細は未だ明らかではない。研究者は体内の鉄の状態を反映するトランスフェリン(diferric transferrin : Tf-Fe_2)の濃度変化をTfR2やHFEが感知している可能性に特に着目し研究を進めている。本研究では、まず細胞膜表面に発現するisoformであるTfR2αを培養細胞に強制発現させ、トランスフェリン(diferric transferrin :Tf-Fe_2)との結合様式、さらには鉄の取り込み機能に関して、従来のTfR1との分子レベルでの差異を明らかにし、平成21年度に報告してきた(Journal of Molecular Biology 2010 ; 397 : 375-384)。同時に、TfR2や、TfR2と協調しながらヘプシジンの発現調節に関わる因子と目されるHFEに関して、各々その発現を増強させた細胞株や、逆に発現をknockdownした細胞株を作成するため、強制発現ベクターやsh-RNA発現ベクターを肝癌細胞株に遺伝子導入し、長期間のselectionを経て安定細胞株を樹立した。TfR2αやHFE発現に関してreal-time RT-PCRやwestern blottingによるスクリーニングを行い、発現低下および発現亢進を定量化し、クローンの選定を行っている。強制発現は良好なクローンが得られたが、knockdownは50%発現低下に到達せず、さらなるknockdownを行っている。培養上清中のTf-Fe_2濃度を変化させ、ヘプシジン発現調節が起こるかどうかの検討も開始している。また、これに先立ち必要となる培養上清中のヘプシジンも測定できる系の構築を完了させ、これも報告し(Proteomics-Clinical Applications. 2009 ; 3 : 1256-1264)、さらに、培養上清中の非トランスフェリン結合鉄も定量するためHPLC法にて測定系を構築し、既報よりその感度を向上させており(論文投稿中)、研究を進展させている。
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