これまでに、転写共役因子であるTIF1bがBmi1と結合し、ポリコーム複合体と共精製されることを見出している。また、レポーターアッセイによりTIF1bの転写抑制活性がBmi1等のポリコーム遺伝子のノックダウンにより減弱することを明らかにした。これらの結果は、TIF1bとBmi1が協調的に造血幹細胞制御に働く可能性を示唆するデータである。このような背景から昨年度は、胎生造血における役割をTie2-Creマウス、成体造血における役割をMx1-Creマウスを用いたTIF1bコンディショナルノックアウトマウスを用いて解析し、TIF1bが赤芽球の成熟、骨髄球細胞分化及びに造血幹細胞の骨髄再構築能に必須の役割を果たすことを見出した。さらに、TIF1b^<F/F>;Tie2-Cre造血幹細胞ではp21の発現が脱抑制されており、クロマチン免疫沈降法によりTIF1bがp21遺伝子プロモーターに結合し転写抑制に働くことを明らかにした。これらの結果はTIF1bによるp21の抑制が造血幹細胞機能に必須の役割を果たす事を示している。 本年度は、LyzM-Creマウスを用い、骨髄球でのTIF1bの欠損では明らかな骨髄球分化異常が起こらないことを見出した。従って、TIF1b^<F/F>;Mx1-Creで認められた骨髄球分化異常は造血幹・前駆細胞でのTIF1bの欠損が原因と考えられる。 一方で、変異造血幹細胞ではヘテロクロマチンの構成因子であるHP1a量が減少し、ヘテロクロマチン領域の数が減少することを見出した。また、TIF1b及びにHP1aのChIP sequence解析を行い、各々1000以上の結合領域を同定している。これらの結果とTIF1b^<F/F>;Tie2-Creのマイクロアレイ解析の結果を比較検討しp21以外の標的遺伝子の同定を行い、これら遺伝子発現に対するHP1a等のヘテロクロマチン因子の影響を検討中である。
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