平成21年度は、STAT5A(1*6)マウスに発症する原発性骨髄線維症(PMF)の病態解析を中心に行った。PMFマウス骨髄を経時的に解析し、骨髄中に異形巨核球と顆粒球が増加するpre-fibrotic phaseにおいて異形巨核球を中心としたTGF-βシグナルが線維芽細胞を誘導して、その後のfibrotic phaseを形成することを明らかにした。一方JAK2V617Fを造血幹細胞(HSC)に強制発現させて放射線照射マウスに移植してもPMFを示さず、むしろtransgenic mouse同様の真性多血症(PV)を呈することが明らかになった。JAK2V617FはSTAT5Aの直上にありSOCSによるネガティブフィードバックを受けるが、STAT5A(1*6)はSOCSの影響を受けないためにより強いSTAT5Aシグナルが入り、PMF方向への病型選択がなされることが示唆された。低力価のSTAT5A(1*6)レトロウイルスベクターを用いてHSCへの遺伝子導入と移植実験を行ったところ、ほとんどのマウスがPVを呈し、このことからもSTAT5Aシグナルの強弱がPVとPMFの病型選択をつかさどることが明らかになった。現在は骨髄中の血液細胞を分取し、STAT5A下流のどの分子が責任分子であるのかを解析している。 またPMFまたはPVの疾患幹細胞を同定するために、STAT5A(1*6)、JAK2V617FによってPMF、PVを起こしたマウスより造血細胞を採取して2次移植を行った。PVは2次移植マウスにおいても再現されたが、移植マウスはPMFを呈さない造血不良により死亡した。 PMFからの2次移植マウスでは、遺伝子導入されていない造血幹細胞も著しいコロニー形成能の低下を示したことから、PMF環境では正常造血幹細胞の機能低下が起きていることが明らかになった。
|