これまで我々は、発生過程の最初に出現する骨髄球/リンパ球共通前駆細胞は細胞表面分子の発現パターンとしてCD45^+c-Kit^+AA4.1^+(KA45)の表現型を有することを明らかにしてきた。まずこの細胞集団の時間的、空間的起源を探ったところ、この細胞集団は胎生8日目には存在しないものの、胎生9日目に卵黄嚢および胚体に出現することを明らかにした。しかしながらこの時期には既に胎仔循環が確立されていることから血流を介した組織間の細胞移動が想定されるため、KA45細胞のさらなる前駆細胞の同定を胚性幹細胞とストローマ細胞の共培養系を用いて試みた。その結果、CD45^-AA4.1^+CD41^+細胞がKA45細胞の前駆細胞であることを見いだすことができた。この前駆細胞を胚胎内で探索したところ、胎生8日目に卵黄嚢で見つかりはじめ、胚体では1日遅れて9日目に出現した。従ってKA45細胞は少なくとも卵黄嚢で産生されていることが判明した。胚体で9日目に見つかったKA45細胞の前駆細胞が独立に発生したものか、卵黄嚢から輸送されたものであるのか今度の検討課題となる。またKA45細胞の造血系への寄与について、この細胞が移植能を有する造血幹細胞の出現する以前の胎生10日目の胎仔肝臓に多量に到達していること、また胎生12日目には胎仔胸腺に到達しており、最初期の造血/リンパ球形成に寄与していること、また造血幹細胞の前駆細胞となっていることが強く示唆された。またKA45細胞の性状として骨髄の未熟造血細胞であるc-Kit^+Sca-1^+LIn^-細胞と比べ、腹腔や胸腔に多く存在するCD5、Macl陽性のB1B細胞へ偏つた分化傾向を示し、発生時期により造血前駆細胞の分化傾向が変化してゆくことも明らかとなった。
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