研究概要 |
成人T細胞性白血病/リンパ腫(ATLL)の臨床分類には"急性型"と"リンパ腫型"がある。これらは典型例のみならず、両方の特徴を持つ中間的症例も多数存在する。現在の臨床分類では中間的症例も"急性型"として扱うことになっている。しかし、その基盤的分子病態についてはこれまでまったく明らかにされてこなかった。 本研究の目的(1)は中間的ATLL症例に対してアレイCGH法を行い、ゲノム異常様式として"急性型"か"リンパ腫型"を明らかにすることである。本年度には症例を追加し,最終的に中間的ATLL13症例のリンパ節・末梢血ペアサンプルのアレイCGHデータを集積した。解析の結果、中間的症例の多くが典型的"リンパ腫型"に特徴的なゲノム異常様式を持つことを明らかにした。ATLL中間的症例の一部には典型的なリンパ腫型と同一病態が含まれている可能性を示す初めての知見である。さらにリンパ節・末梢血ペア検体のゲノム異常を詳細に比較したところ、リンパ節検体においては様々にゲノム異常が付加された腫瘍クローンを複数持つ症例が高頻度(9例;70%)に存在し、さらにその複数クローンの一部が末梢血に流れ出ていることを見出した。この事実は、中間的症例の一部はリンパ腫型のようにリンパ節を主座とし、そこから腫瘍細胞の一部が末梢血に流れ出ていることを意味している。これらはATLLの臨床病型を再検討する必要性を分子病態から指摘する画期的な発見であり、論文報告した。 本研究の目的(2)は典型的"急性型"と中間的ATLL症例の発現解析を行い、比較検討することである。最終的に典型的"急性型"ATLL症例8症例と中間的ATLL症例6症例の遺伝子発現データを集積し、これらの遺伝子発現パターンを比較したが、明確な違いを見出すには至らなかった。このことは、臨床・ゲノムデータを用いた典型的急性型と中間的症例の区別が現段階では十分ではないこと示唆しているのかもしれない。
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