細胞運動機能の引き金となるミオシンのリン酸化は、ミオシンリシ酸化酵素(MLCK)とミオシン脱リン酸化酵素(MLCP)の相対的酵素活性バランスにより制御を受けている。ミオシンリン酸化の新たなメカニズムとして同定された、MLCPの一分子であるMYPT1の新たな結合蛋白質のp116Ripは、RhoA、MLCPと結合することによって、RhoAを不活化しMLCP活性を上昇させ、その結果として細胞内のミオシンのリン酸化を抑制的に制御していた。p116Ripは平滑筋や脳、肺に発現していることが報告されていることから、肺由来のヒト繊維芽細胞(HFL-1)及び、ヒト気道上皮細胞(HBEC-3)の培養細胞を用いてp116Ripのタンパク発現の検討を特異的抗体を使用したウエスタンブロット法にて行った。さらにp116Ripに対する特異的siRNAを使用してHFL-1及び、HBEC-3細胞内におけるp116Ripのgene silencingの検討を行った。また、気道ムチン産生性の肺胞上皮細胞株であるNCI-H292 cellを用いて、p116Ripのgene silencingの検討を行い、いずれの細胞株においてもp116Ripが発現しており、かつp116Rip siRNAを用いる事によって特異的に効率よくp116Ripの蛋白発現がknock downされることが判明した。そして、p116Ripのgene silencingに伴い、ミオシンのリン酸化が上昇している事もウェスタンブロット法により判明した。In vitroだけでなくin vivoにおいてのp116Ripの役割を解明するために、世界初となるp116Ripの全身過剰発現型モデルマウス(トランスジェニックマウス)の作製を行い、現在のところF0マウスからF5マウスまでの繁殖に成功し今後、数を増やして誕生するマウスのphenotypeを解析し、それらマウスの気道上皮細胞のムチン分泌に及ぼす影響をwild typeと比較検討して行く予定である。
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