研究概要 |
本研究では好塩基球のTh2免疫応答サイトカイン産生における抑制型免疫グロブリン様受容体PIR-Bの関与について検討することを目的とした.これまでに好塩基球は,(1)休止期にはIL-3刺激にのみIL-4を産生するが,活性化時にはIL-3刺激には応答せずIgEクロスリンク刺激にのみIL-4を産生する.(2)活性化によりPIR-Bの細胞表面発現が上昇する.(3)PIR-B発現欠損好塩基球は野生型とは異なり活性化時にもIL-3刺激に応答してIL-4を産生するという結果を得ている.これら結果からPIR-BはIL-3依存的なIL-4産生経路への関与が示唆される.そこでレトロウィルスベクターによる遺伝子再構成の実験系を用い,PIR-B欠損好塩基球はPIR-Bの発現回復によりIL-3刺激によるIL-4産生が野生型と同様のパターンに回復することを確認した.さらに好塩基球のシグナル解析を行いPIR-B欠損好塩基球では野生型と比べてIL-3刺激によるSykのリン酸化が亢進することから,IL-3刺激により動員されるSykの活性化をPIR-Bが抑制することでIL-4産生シグナルを制御している可能性が示唆された.一方,PIR-Bの活性化制御機構は,その細胞内領域のITIMチロシンリン酸化部位へ動員される抑制性フォスファターゼSHP-1により活性化シグナルを抑制すると考えられているが,今回このITIMのチロシン残基を欠失させた変異型PIR-Bを発現させIL-4産生を検討したところ,野生型PIR-Bを発現させた好塩基球と同様のIL-4産生パターンであった.またPIR-BリガンドであるMHC-Iを欠損する好塩基球では野生型と同様のIL-4産生パターンであることから,好塩基球のIL-3刺激によるIL-4産生機構にはこれまでに報告されていないPIR-Bの新たな免疫制御機構が関与するものと考えられる.
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