本年度は細胞マイクロアレイシステムにより得られた30数種の抗HBVモノクローナル抗体を用いて、抗体の生理的活性の評価を行い、また、それぞれの抗体が認識するエピトープとHBV中和能につき検討した。その結果、HBVに対するモノクローナル抗体はさまざまな結合活性を示するのが混在していた。抗体のエピトープ部位として予想されたHBV表面蛋白抗原(Small-HBsAg)の細胞外部位(抗原決定基a)を立体構造を保つ形でペプチド断片化し、抗体の結合を検討したところ、モノクローナル抗体の多くがいずれかのペプチドを認識しており、特に細胞外のループ構造部を認識するものが多く認められた。次に、HBVの感染、抗体の中和効果をin vitroでHepaRG細胞を用いて検証した。HBV量を調節し、感染条件を検証した結果、2x10^4コピーのHBV感染をHBV-DNAまたはHBsAg定量、HBcコア抗原の免疫染色にて確認できた。これらの感染系を用いて30数種のモノクローナル抗体のHBV中和能を検討したところ、抗原決定基aのループ構造部を認識する抗体が他の部位を認識する抗体より高いHBV中和活性を示した。抗体のHBsAgへの親和性よりも、どこのエピトープを認識するがHBV中和能に関与が深いと思われた。 これらの知見はHBワクチンにより誘導される抗体がHBsAgのどの部位を認識しているのかを示しており、HBワクチンによりHBV中和メカニズムを考える上でも興味深い知見と思われる、HBワクチンに応答しない症例も存在することが知られているが、そのような症例に対する対処として、HBsAgの細胞外ループ領域蛋白を追加免疫したり、細胞外ループ領域蛋白とアジュバンドを用いて免疫したりなどの方法が有効である可能性も示唆される。また、HBsAgの特定の部が強いHBV中和活性を示すことより、HBVの肝細胞への感染に同部位がなんらかの作用を果たしている可能性が考えられ、HBVの感染機序の解明や同部位を標的とした治療法の開発など今後につながる重要な知見であると思われる。
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