研究課題
先災性奇形症候群の一部は悪性腫瘍を高率に合併することが知られているが、その発症メカニズムは不明である。そこで本年度は卵巣がんを合併したNoonan症候群および神経膠腫を合併した結節性硬化症の患者検体より抽出したDNAを用いてSNPアレイによる網羅的ゲノム解析を行い、発症メカニズムの解明を試みた。まず、患児の末梢血液試料および腫瘍組織から抽出したゲノムDNAを適切な制限酵素で消化し、断端に共通のアダプターを付加した後、GeneChip 250k array(CNAG/AsCNAR)でゲノムコピー数の解析を行った。その結果、卵巣がんを合併したNoonan症候群に関しては患者由来の正常検体および腫癌検体ともに大きな領域のゲノムコピー数の異常は検出されなかった。従って、本症例の腫瘍化のメカニズムとしては、Noonan症候群の発症に関与するRAS経路の異常に加えて、特定の遺伝子の微細な欠失、増幅もしくは変異が関与している可能性が示唆された。また結節性硬化症に合併した神経膠腫では1q、2p、5q、9p、13pの片親ダイソミー、14q、16qのgainなど複数のゲノム異常が検出された。これらの異常は通常のsporadicな神経膠腫のゲノムコピー数の異常としては非典型的なものであった。これらのゲノム異常がみられた領域には神経膠腫と結節性硬化症の発症に関与する遺伝子群が存在する可能性が示唆された。Noonan症候群に白血病や神経芽腫などの悪性腫瘍が合併することが知られているが卵巣がんの合併は極めて稀である。また結節性硬化症に過誤腫などの良性腫瘍が合併することは知られているものの、神経膠腫のような悪性脳腫瘍が合併することはこれまで報告がない。従って、これらの貴重な症例のゲノム解析により先天性奇形症候群と発がんのメカニズムに関する新たな知見が得られるものと期待される。
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