LMO2は造血に必須の転写調節因子であり、小児T細胞性急性リンパ性白血病(T-ALL)の約半数の症例で過剰発現されている。しかし大半の症例では過剰発現の機序が不明であるばかりでなく、過剰発現がどのようにして白血病発症につながるのかという極めて重要な課題が未解決のままである。T-ALLの予後は依然として不良であり、本研究では我々のこれまでの研究成果をふまえてLMO2過剰発現の機序と生物学的意義を明らかにすることを目指している。 本年度はLMO2過剰発現の生物学的意義について、LMO2のsiRNAをT-ALL細胞株に導入するため、レンチウイルスベクターによる導入を行った。T-ALLでの検討の前段階としてB前駆細胞型ALLでLMO2を過剰発現している17;19転座型白血病細胞株のUOC-B1にLMO2のsiRNAを導入したところ、その発現は1000分の1程度に抑制され、flow cytometryでactive caspase3陽性の細胞が増加して細胞死が誘導されるとともに、マイクロ・アレイ解析でB細胞の初期分化に関連する遺伝子の誘導が観察された。このことから17;19転座型ALLでは、LMO2遺伝子の過剰発現が白血病細胞の生存と未分化状態の維持に関与している可能性が示唆された。これはB前駆細胞型ALLの発症にLMO2が関わることをはじめて明らかにするものであり、BLOOD誌上で発表した。 siRNAの導入については、自治医科大学分子病態治療センターの古川雄祐教授の研究室のサポートを受けてレンチウイルスベクターによる導入を行ってきていたが、当科では17;19転座型白血病細胞株以外で安定した導入効率が得られず、新たにInvitrogen社のNeon Transfection systemによるエレクトロポレーション法で導入を試みている。この方法では、17;19転座型白血病細胞株以外のB前駆細胞型ALL細胞株でもLMO2の発現を5割程度にまで安定して抑制することができるようになってきており、T-ALLでのsiRNA導入を行う予定である。
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