急性リンパ性白血病(ALL)はTまたはBリンパ球前駆細胞の白血化であるが、このうち5~32%の症例で骨髄球系抗原の発現が認められる。その中でもCD33陽性の小児B前駆細胞型ALL症例の予後が陰性例と比べて際立って不良であると報告され、小児ALLにおける骨髄球系抗原、特にCD33発現の意義が注目されているが、その発現機序と機能的意義に関しては現在も不明である。我々は、小児ALLの中でも著しく予後不良である17;19転座型ALLでは高頻度にCD33が陽性であり、17;19転座に由来するE2A-HLF融合遺伝子がCD33の発現に関与することを見出した。本研究はE2A-HLFをはじめとする転座由来の融合遺伝子産物による骨髄球系抗原の発現誘導の機序を明らかにし、骨髄球系抗原の白血病細胞の増殖・生存などへの影響を解析することを目的とするが、本年度はE2A-HLFによるCD33発現誘導の機序の解明に焦点を絞り解析を行った。これまでの解析からE2A-HLFによるCD33遺伝子の発現誘導に重要な領域をプロモーター上の200塩基の領域にまで絞り込むことに成功していたが、この部位には骨髄球系細胞でCD33の発現に中心的な役割を果たすPU.1の結合配列が含まれていた。そこでCD33遺伝子のプロモーター活性に対するPU.1結合配列の変異導入の影響をルシフェラーゼによるレポーター・アッセイで検討したところ、骨髄球系細胞株とは異なり17:19転座型ALL細胞株では同部位の変異導入によるプロモーター活性の低下は認められなかった。この結果からE2A-HLFは骨髄球系細胞とは異なる機序でCD33発現を誘導する可能性が推測される。CD33陽性が小児B前駆細胞型ALLの予後不良因子として注目されていることから、ALLにおけるCD33の発現機序を明らかにすることは、その治療成績向上に大きな意義を持つと考えられる。
|