難治性神経疾患のひとつであるペルオキシソーム欠損症の病態解明のために、胚性幹細胞(ES細胞)および多能性幹細胞(ips細胞)を神経細胞に分化誘導し、ペルオキシソーム関連遺伝子およびタンパク発現の消長を観察し、神経発生機構におけるペルオキシソームの役割を明らかにすることを目的として、研究をすすめている。 本年度は、医学部倫理審査委員会での承認を得たうえで、患者皮膚線維芽細胞からips細胞の樹立を行った。2種の相補性群、B群とE群の細胞から7クローンずつips細胞を樹立、各種未分化マーカー発現確認および分化実験を行い、ips細胞としての評価を行った。 【結果】患者細胞由来ips細胞においても正常細胞由来ips細胞と同様に各種未分化マーカーの発現が確認でき、3胚葉系への分化能をin vitroで確認できた。しかし疾患群によってiPS細胞の維持培養の容易さに差が認められた。B群では正常細胞由来ips細胞よりも増殖が遅い傾向があった。また、E群ではコンフルエントに近くなると死滅しやすく非常に維持培養が困難であった。 【考察・今後の展望】幹細胞としての生命機能を維持する機構にペルオキシソーム関連遺伝子の異常が何らかの影響を及ぼしている可能性も考えられる。今後その解明のために、分化細胞におけるペルオキシソーム遺伝子発現やタンパク発現の検討に加え、同じ相補性群に属する他の皮膚線維芽細胞からのips細胞樹立、マーカー発現検討や、異なる相補性群からのips細胞樹立、マーカー発現検討についてもさらに進めていくことが重要である。
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