本研究の目標は、抗癌剤に対する薬剤耐性メカニズムを解明し、克服することである。我々は、様々な薬剤耐性機構の中で、薬物排出を担うABCトランスポーターである多剤耐性関連蛋白質(MRP1)に注目した。このトランスポーターと同じ部位に結合し、薬物排出と拮抗し薬物耐性克服する化合物(モジュレーターと呼ぶ)のひとつである、ロイコトリエン受容体拮抗薬を用いた耐性克服効果の検討を行うことによって、将来、臨床応用できるモジュレーターの開発に繋げることを目的としている。 我々は、本研究期間中に以下の成果を得ることが出来た。低濃度抗癌剤添加による耐性細胞選択法またはMRP1cDNAトランスフェクション法にてMRP1が高発現した耐性化細胞を樹立した。さらに、薬剤感受性試験(MTTアッセイ)により耐性化細胞に各種抗癌剤(ドキソルビシン、エトポシド、ビンクリスチンなど)への耐性化を確認した。FCMとLight Cycler(Roche)を用いたリアルタイムPCRでMRP1mRNAの増幅を確認した。ロイコトリエン受容体拮抗薬添加後の薬剤感受性試験では、添加の無い群と比較して有意に耐性が克服されていた。またそれは濃度依存性があった。蛍光色素排出能試験にてロイコトリエン受容体拮抗薬を添加後、細胞外への排出が抑制されていた。また細胞内グルタチオン濃度測定、ATPアッセイ、アポトーシス経路、細胞周期測定により、ロイコトリエン受容体拮抗薬がMRP1を抑制し、モジュレーターであること証明した。現在、これらの結果を論文で報告する準備中である。
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