分子状水素の肺高血圧発症予防に対する効果を評価するために、ラットに対してモノクロタリンの皮下注射を行うことにより肺高血圧モデルを作成した。飽和水素水をモノクロタリンの皮下注射を行った日から3週間摂取させたのちに血行動態評価を行ったうえ屠殺し、肺組織を得た。モノクロタリン投与+飽和水素水投与群(H群)、モノクロタリン投与+脱水素水投与群(M群)、モノクロタリン非投与+脱水素水投与群(C群)の3群間で比較検討した。得られた肺組織に対して、ヘマトキシリンエオジン染色、エラスチカワンギーソン染色にて肺血管の形態、中膜平滑筋の筋性化の程度を評価した。また、肺血管周囲の炎症性細胞の浸潤を抗CD68抗体による免疫染色を行った上、外膜中のCD68陽性細胞数として定量的に評価した。また、中膜平滑筋については抗α-アクチン抗体による共焦点レーザー顕微鏡による免疫染色でも評価を行った。モノクロタリン投与後21日の血行動態評価で、M群では著明な肺高血圧を認めたが、分子状水素の投与を行ったH群では肺動脈圧の上昇は抑制されていた。また、右室肥大の程度もM群に比べH群では軽快していた。肺動脈中膜平滑筋はM群に比べH群では筋性化の程度が軽快していた。また、血管外膜に対するマクロファージの浸潤がM群に比べH群では減少していた。肺高血圧症の病態には炎症も関与することは知られているが、これらの結果より分子状水素は肺高血圧症の改善に炎症の抑制を介して寄与する可能性が示された。
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