難治性疾患である肺高血圧発症に対する分子状水素の抑制効果を評価するために、ラットに対してモノクロタリンの皮下注射を行うことにより肺高血圧モデルを作成した。飽和水素水をモノクロタリンの皮下注射を行った日から3週間摂取させたのちに血行動態評価を行ったうえ屠殺し、肺組綴を得た。モノクロタリン投与+飽和水素水投与群(H群)、モノクロタリン投与+脱水素水投与群(M群)、モノクロタリン非投与+脱水素水投与群(C群)の3群間で比較検討した。得られた肺組織に対して、ヘマトキシリンエオジン染色、エラスチカワンギーソン染色にて肺血管の形態、中膜平滑筋の筋性化の程度を評価し、これまでの検体と同様の傾向があることを確認した上で、肺血管外膜の線維芽細胞の浸潤について抗vimentin抗体による免疫染色により評価した。また、肺高血圧症病変の形成過程における細胞増殖の程度については、細胞増殖マーカーである抗Ki-67抗体を、酸化ストレスマーカーである抗80H-dG抗体による免疫染色で組織の酸化ストレスについても評価を行った。血管外膜においてvimentin陽性の線維芽細胞がM群に比べH群では減少する傾向にあった。また、肺血管の構成細胞においてM群ではKi-67陽性の細胞がC群に比して増加し、H群ではM群より少ない傾向があった。また、抗80H-dG抗体陽性細胞についてもKi-67陽性の細胞と同様の傾向を認めた。肺高血圧症の病態にはマクロファージ、線維芽細胞の関与する炎症が寄与することは知られているが、これらの結果より分子状水素は肺高血圧症の改善に炎症の抑制、酸化ストレスの抑制、細胞増殖抑制を介して寄与する可能性が示された。
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