これまで我々が確立してきたヒトーマウス異種移植の系を用いることによって、近年基礎、臨床両面で着目されている「がん幹細胞」のうち特に「ヒト小児白血病幹細胞」に焦点を当て、その特性・体内動態を解明することが本研究の目的である。当該年度の研究により、まずヒト急性リンパ球性白血病細胞をNOGマウスの尾静脈に注射することにより、ヒト白血病細胞を効率よくマウス個体内に生着させる系を確立することが出来た。マウス個体内において経時的にヒト白血病細胞の割合が増し、骨髄をはじめ肝臓、脾臓、リンパ節、生殖器においても白血病細胞が増殖し、移植後数ヶ月にて9割以上のキメリズムを達成できていることを免疫学的評価、組織学的評価にて確認することが出来た。更に、我々は骨髄以外の臓器として肝臓に注目し、移植後早期より肝臓内の特に胆管周囲にヒト急性リンパ球性白血病細胞が出現していること、分裂増殖を繰り返していること、高キメリズムマウスに化学療法を行ってもやはり胆管周囲に白血病細胞が残存し、化学療法の終了と共に再増殖を認めること等を発見した。 臨床において一般に急性骨髄球性白血病細胞は肝臓内で門脈域~類洞~中心静脈域と比較的均一に分布する一方、急性リンパ球性白血病細胞は門脈周囲に集簇して分布すると言われており、上記の現象は臨床症例を極めて模倣していると考えられる。近年骨髄において正常造血幹細胞や白血病幹細胞のニッチェの候補として、骨内膜の骨芽細胞ニッチェと血管周囲組織を中心とした血管ニッチェが挙げられているのを参考に、我々は急性リンパ球性白血病幹細胞のニッチェが骨髄以外に肝臓においても存在し、しかも胆管周囲にあるのではないかと仮説を立てた。次年度の研究にてこれらの真偽と関連する因子の同定を進めていく予定である。
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