Embryonal caricinoma cell由来のP19CL6細胞は、1%DMSO添加培地において、高率に自己収縮する心筋細胞に分化する多分化能細胞で、in vitroにおける心筋細胞分化過程を簡便かつ詳細に検討することができる。我々はLEOPARD症候群で同定された変異体SHP-2(Src homology-2 protein tyrosin phosphatase)を発現するレンチウイルスベクターを作成し、このP19CL6細胞に感染させ、恒常発現体の作成に成功した。LEOPARD症候群において幼児期より重度の肥大型心筋症の発症が報告されているQ510E変異体と、コントロールとして、GFPのみ発現する株、Wild type SHP-2の発現体株、さらに、Noonan症候群での変異体であるD61Nの発現体株を作成した。これらに対して分化誘導を行うと、Q510E変異体では有意に成熟心筋細胞への分化が遅延しており、さらに、成熟心筋細胞のサイズも大きくなっていた。しかし驚くべきことに、Q510E変異体では、Gata4、Nkx2.5、Tbx5といった心筋細胞分化特異的転写因子の発現は、コントロールと有意な差を認めず、Q510E変異体では、心筋前駆細胞への分化は正常であるものの、成熟心筋細胞への最終分化が抑制されていると考えられた。また、Q510E変異体では、細胞増殖活性も上昇していた。細胞内シグナル解析では、Aktの活性上昇とGSK3βの活性低下が見られた。また、心筋分化後期段階で、核内β-cateninシグナルの上昇が見られ、Akt/GSK3β/β-cateninシグナルの異常が心筋最終分化を抑制し、心筋前駆細胞のexpansionを促している可能性が示唆された。即ち、個々の心筋細胞の肥大と、心筋細胞数の増加の2つのメカニズムが、LEOPARD症候群における肥大型心筋症発症に関与している可能性が考えられた。
|