原発性免疫不全症候群の代表的疾患であるBruton型無ガンマグロブリン血症(XLA)は、X染色体長腕上に存在するBruton Tyrosin Kinaseの変異が原因である。ヘルパー依存型アデノ・アデノ関連ウイルス(AAV)ハイブリッドベクター(HD-Ad.AAV.ベクター)は、造血幹細胞(HSC)での高い感染効率を示し、大きな遺伝子の搭載が可能なヘルパー依存型アデノウイルスベクターと、相同組み換えにより目的遺伝子座領域での組み込み(ターゲティング)による修復をおこし、長期間安定した遺伝子発現が可能なAAVベクターの両者の長所を兼ね備えている。また、この疾患はHSCの一部で変異遺伝子の修復が行われ、かつ増殖優位性が獲得されれば治療に結び付く可能性がある。XLAの遺伝子治療を目的に、BTK遺伝子のエクソン6から19とその隣接遺伝子TIMM8Aを含むゲノム領域、およびEGFPとHygromycin(Hyg)耐性遺伝子を搭載したHD-Ad.AAV.ベクターを作製し、造血幹細胞系でのBTK遺伝子修復研究を行った。 ヒト男性preB-ALL細胞株であるNalm6では0.073%で相同組換えを証明した。正常ヒト男性臍帯血より磁気ビーズを用いてCD34陽性造血幹細胞を分離し、ヘルパー依存型アデノ.AAV.BTKベクターを感染させた。メチルセルロース培地ヘサイトカイン、ハイグロマイシンを添加しコロニーアッセイ法による培養を行った。3週間の培養によりハイグロマイシン耐性コロニーを得た。播種細胞数に対し3.6×lO^<-5>の頻度でベクター搭載遺伝子の組込みをPCRにより確認し、このうち0.7%でBTK遺伝子のターゲティングを認めた。造血前駆細胞コロニーを認め、相同組換え細胞の造血前駆細胞への分化能が証明された。これまで正常ヒト造血幹細胞でのウイルスベクターを用いた遺伝子ターゲティングの報告はなく、本研究で初めて相同組換えが証明された。また、本ベクターを用い、造血幹細胞を対象としたターゲティングによるBTK遺伝子変異の修復が可能であることを示した。現在、LAM-PCR法によりランダムな組込みでの遺伝子挿入部位の検出を行い、本ベクター機能の解析を行っている。
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