成体骨髄では、造血幹細胞は定常状態で静止期を維持している。血液細胞が枯渇すると細胞周期は活性化し、自己複製および分化・増殖が行われる。造血幹細胞が静止期を維持するためには、幹細胞の微小環境ニッチとの相互作用が重要である。本年度は、造血幹細胞-ニッチ間相互作用を阻害することにより、骨髄非破壊的方法による骨髄移植を試みた。 骨芽細胞ニッチ、造血幹細胞がそれぞれ発現するトロンボポエチン(Thpo)、Mp1受容体を介したシグナルは、造血幹細胞の静止期維持に重要である。Mp1中和抗体(AMM2)をday -6に、低用量の5-FUをday -2にそれぞれ投与し、day0に放射線照射を用いずにLSK 10^4個の移植を行うと、ドナー細胞による骨髄再構築(5.8±0.7%)がみられた。この結果は、Thpo/Mp1シグナルの抑制により幹細胞の細胞周期が活性化し、続けて投与した5-FUが活性化されたレシピエント幹細胞を排除することで、ドナー由来骨髄細胞の生着を可能にした機構によると考えられる。また、インターフェロンアルファ(IFNα)は、一過性に静止期造血幹細胞の細胞周期を活性化した。野生型レシピエントマウスにday -3およびday -1にpoly(I:C)を、day0に5-FUを投与し、day 3にドナー由来骨髄細胞を放射線照射なしに移植すると、ドナー由来骨髄細胞が生着し、リンパ球系および骨髄球系の再構築を得た(Sato T et al.Nature Medicine 2009)。この結果から、IFNαの刺激により幹細胞の細胞周期が活性化し、ドナー骨髄細胞が生着可能なニソチが創られたことが考えられる。 以上の結果は、抗体や薬物によるニッチ操作を行う骨髄非破壊的前処置でも移植が可能であることを示している。これらの新規移植療法の発展により、従来の移植に伴う放射線照射や大量化学療法による副作用を回避できる可能性がある。
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