2009年に我々が経験した新型インフルエンザウイルスのパンデミックにより、経済、社会に大きな打撃を与えたことは記憶に新しい。今後も、同様のパンデミックが起こることは容易に想像ができる。また、高病原性であった場合にはその影響は計り知れない。そこで、本研究では、高病原性のインフルエンザウイルスの毒性に関する知識を深めるために、インフルエンザウイルスの温度への適応に注目した研究を行った。インフルエンザウイルスはトリとヒト以外にも様々な動物に感染する人獣共通感染症であり、様々な亜型が存在する。これら宿主の体温は大きく異なり、また同亜型内には様々な毒性の違いがある。高病原性インフルエンザウイルスに至ってはヒトに対する致死率が50%を超える。そこで、これら病原性に関わる因子として、インフルエンザウイルスの持つ遺伝子複製酵素の温度特性に注目した。現在までに、H1N1、H3N2、H5N1、及び新型H1N1の遺伝子複製酵素をクローニングし、それぞれの酵素活性を細胞内転写・複製系を用いて、34℃、37℃、42℃で比較した。結果、それぞれの株で転写及び遺伝子複製の温度特性が全く異なることを見出した。また、その温度特性に関わる因子として、遺伝子複製酵素の構成蛋白質のひとつが非常に重要な働きをしていることを突き止めた。さらに研究を詳細に進めるため、重要な蛋白質に遺伝子変異を導入し、責任アミノ酸の同定を行った。この部位は今までに報告されていない全く新しい部位であるが、遺伝子複製において、鋳型遺伝子の転写開始位置への結合に非常に重要な部位に近いことがわかった。現在は、細胞内の転写・複製系だけでなく、試験管内の転写・複製系も用いてメカニズムをさらに詳細に追及しており、結果をまとめ国際学術雑誌及び国際学会への報告の準備を行っている。またこの結果から新規治療法への応用を検討している。
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