インフルエンザウイルスは様々な動物に感染する人獣共通感染症であり、多数の亜型が存在する。この亜種の多様性により、インブルエンザウイルスは広範囲な宿主域を持つと考えられる。新型インフルエンザウイルスの発生には、遺伝子分節の入れ換えによる亜型の変化が関与しており、この入れ換えにより、宿主因子への適応、温度への適応を変化させている。これまでに、宿主への適応について、インフルエンザウイルスの持つ遺伝子複製酵素が関わる事が示唆されている。また、温度適応に関しても同様に遺伝子複製酵素が関わっており、これにより、体温が大きく異なるトリとヒトにそれぞれ適当していると考えられる。このように宿主や温度への適応はインフルエンザが効率よく増殖するための重要な因子となる。 そこで、本研究では、インフルエンザウイルスが独自に持つ酵素である遺伝子複製酵素に注目し、温度変化に対する適応のメカニズムを細胞内レプリコン系、および試験管内実験系を用いて探った。遺伝子複製酵素は、3種類のたんぱく質から構成されており、それぞれのタンパク質は異なる遺伝子分節によりコードされている。本研究において、この3種類のタンパク質の入れ換えにより、酵素活性の特性が変わる事を見出した、また、温度への適応についても、この3種類のたんぱく質の入れ換え(特にPAサブユニットと呼ばれるタンパク質)の重要性を報告した。またこの研究過程において、PB2およびPAサブユニットの特定の組み合わせにより、遺伝子複製酵素の活性が完全に喪失することを見出し報告した。 現在は、この遺伝子複製酵素の活性喪失のメカニズムをさらに探究し、遺伝子複製酵素に対する阻害薬としての応用を試みている。
|