研究概要 |
腎芽腫の半数近くは既知原因遺伝子に異常が認められていない.腎芽腫の発生機序には未知の原因遺伝子が関与していると予想され,未だその分子生物学的特徴は未明な部分が多く残っている.腎芽腫の半数近くにβカテニンの蓄積を認めることから,Wnt/βカテニン分解系の異常が腎芽腫の発症に関与することが示唆されているが,βカテニンとWTXの異常が報告されているのみでWnt/βカテニン分解系に関わる他の遺伝子については解析されていない.そこで腎芽腫の分子生物学的特徴の解析の一環として,本年度は腎芽腫発症におけるWnt/βカテニン分解系に関わる遺伝子群異常の関与とその意義を明らかにするため、RNAの抽出可能だった44検体に関してWnt/βカテニン分解系遺伝子(AXIN1,AXIN2,APC,WTX)のmRNA発現をリアルタイムPCRにて解析した。AXIN1は全症例で正常人と同等かそれ以上に発現しており、AXIN2、APCは2および3症例でのみ発現消失を認めた。変異解析はAPCの変異を1症例で認めた。WTXおよびβカテニンの異常はそれぞれ腎芽腫の20%に認められるが、WTXおよびβカテニン以外のAPC複合体遺伝子異常は非常にまれであった。今後はβカテニンの下流遺伝子の発現を解析しWnt/βカテニン分解系の異常がAPC複合体以外で生じている可能性を検討するとともに、LPR5、6といった受容体に関して解析を進めていく予定である。
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