ムコ多糖症患者に対して、酵素補充療法により大幅な症状の改善を認めるが、改善に至らないもしくは進行する症状もある。加えて毎週の点滴投与に対する本人、家族の負担はかなり大きいため、有効性が高く、かつ長期持続効果を有する治療法を研究する。具体的には、遺伝子導入されたヒト間葉系細胞をムコ多糖モデルマウスへ埋め込み、永続的な酵素補充の方法を開発、前臨床実験を行う。移植に用いる細胞は骨髄、子宮内膜細胞由来の間葉系細胞を選択した。これらは他の細胞に比し高いGUSB活性(66.2、168.0U/mg protein/h)を認めたが、それらの細胞によるMPS VII欠損細胞へのGUSB取り込み率は低率(14.3%、16.5%)であった。今後、これらの細胞をMPS VIIマウスに移植し、その分化、生着を評価する。また、それらの細胞にGUSB遺伝子を導入、強発現させ、移植後のマウスへの有効性を評価する。 ムコ多糖症患者に対して、臨床研究が行われた報告を詳細に検討した。10例のMPS II型患者に対する酵素補充療法の長期治療効果と安全性評価である。12カ月間の投与により、尿中GAG濃度の減少、肝・脾容積の縮小、努力肺活量の増加、6分間歩行検査の改善、左室心筋重量係数の減少、関節可動域の拡大が認められ、欧米の臨床試験と同様の成績であった。また、10例中6例に抗イデュルスルファーゼ抗体が陽性となり、4例に投与関連反応が認められたが、その後の投与継続に支障はなかった。これも欧米の臨床試験と同様の成績であった。 中枢神経系への影響、心臓弁、骨には酵素は有効に到達しないため、われわれの埋め込み療法を開発していく上で、高分子蛋白である酵素が到達できない場所、あるいは血流に乏しく酵素が到達しにくい場所に関して、新たな酵素製剤の開発、通過させ得る運搬体の開発、投与方法の検討なども加えて研究していく必要があることが判明した。
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