本研究の目的は、胎盤内の胎児-母体間の毛細血管を形成し、ガス・栄養交換を行う上で重要な役割を担っていることが動物実験で明らかにされたレトロトランスポゾン由来の胎盤形成遺伝子(Rtl1)について、Rtl1がヒト胎盤で発現していることを確認すること、Rtl1の欠失や遺伝子変異がヒト子宮内胎児発育遅延(IUGR)の発症原因であるかを解明することである。 1. ヒトIUGRの発症原因についての疫学的検討 ヒトIUGRの発症にどの程度、胎盤の異常が関与しているかを明らかにするために、2004年から2008年の過去5年間に神戸大学医学部附属病院周産母子センターで出生した重症IUGR児を対象にIUGRの発症原因に関する疫学調査を行った。計150例の対象を解析した結果、発症原因が胎盤の異常であった症例が32.7%を占め、重症IUGR発症の主因であることを明らかにした(第54回日本未熟児新生児学会にて報告)。ヒトIUGRの発症において、胎盤異常の原因を明らかにすることが重要であることを臨床的観点から明らかにしえた。 2. 本研究の倫理委員会への申請と対象胎盤検体の確保 本研究を神戸大学大学院医学研究科の医学倫理委員会へ申請し承認を得た。その後、原因不明のIUGR児30例と正常新生児25例の胎盤を採取し、DNA・RNAの抽出が完了した。来年度の分子生物学的手法を用いたRtl1の発現の検討に向けて、計画通り、対象の胎盤を十分な数を確保することができた。
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