ニューラルネットワーク形成障害の発症メカニズムは、主として完成された脳あるいは発生過程の脳において正常な過程から逸脱することにより生じる。胎生期や妊娠期に曝露される物理化学的環境因子には、抗生物質、ワクチンやアルコール等の他にも、外来性由来ホルモン、ストレス曝露や感染が挙げられ、すでに構築されたニューラルネットワーク形成に対する影響が大きい。これまでに、異なる遺伝形質を持つマウス系統(遺伝要因)と、異なるアルコール曝露時期(環境要因)への影響を解析してきた。面白いことに、遺伝要因へのアルコール曝露の影響は、アルコールに対する抵抗性の強弱により現れる差として表現できる一方で、環境要因による影響は、神経細胞とグリア細胞の細胞膜表面に現れる各種栄養因子の遺伝子発現において、相乗的もしくは相反的に作用する分子間の相関を明らかにできた。ニューロン間が接するシナプス膜領域の物質移動に注目した予備実験では、非興奮状態の細胞膜表面において大変興味深い形態像を国際誌に報告することができた。近年、精神疾患とくに統合失調症においては、幹細胞性を有する細胞の脆弱性が関わると提唱され、本研究で注目する胎生期や妊娠期に曝露されるアルコールの影響に照らし合わせた場合、神経細胞やグリア細胞の発生・分化に関わる各種栄養因子の遺伝子制御の影響は、細胞膜表面で機能確立に応じ自在に形態を変えた結果、ニューラルネットワーク形成障害の一因になると考えた。本年は、アルコール曝露の影響においても幹細胞性を有する細胞の脆弱性との相関が存在すると考え、特に、ニューラルネットワークが形成される過程の細胞膜表面構造(非興奮状態)に着眼し、環境要因がもたらす遺伝子制御との関係を再評価し、遺伝子発現を制御する上流領域のプロモーター/エンハンサーとの相関解析を通して、より具体的に臨床応用あるいは予防医学に貢献してゆくものである。
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