ヒトの胎齢3ヶ月ころには大脳皮質が出現してくるが、ラットでは妊娠15日頃がこの時期に相当する。我々は、妊娠15日のラット母獣にLeukemia inhibitory factor(LIF)を投与すると、胎盤からACTHが胎児側に分泌され、このACTHが胎児血球からLIFを分泌するLIF-ACTH-LIFシグナルリレーが存在することを明らかにしてきた。さらにこのシグナルリレーにより、母獣にLIFを投与すると胎児大脳皮質でのBrdUの取り込みが増加することを明らかにした。現在、DOHaD(Developmental origins of health and disease)説により、母体の低栄養などによる不十分な環境に胎児が曝露されたために成人病や精神疾患などの素因をもつことが提唱されているが、このような母胎間シグナルリレーの解明により胎児発生過程における母体環境の重要性を明らかにすることができると考えられる。 さらに、ラット新生時期はヒトの胎齢5ヶ月頃に相当するため、ヒトの胎盤に相当する母胎間シグナルの研究対象として我々はラット母乳に着目した。そこでまず初めに、人工哺育により定量的にサイトカイン等を投与できるシステムを構築するため、本年度ではラット用人工ミルクの作成、経口投与システムを完成させた。また、各ステージによる乳腺細胞の遺伝子発現の変動で網羅的にみるため、DNAアレイを用いた解析を行っている。さらに、各時期におけるラット母乳の搾乳を行い、プロテオミクス解析も同時に行い、時期特異的な蛋白やペプチドを同定中である。
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