研究概要 |
【研究要旨】 近年,重金属、ダイオキシン類、残留有機汚染物質、農薬などの環境汚染物質への暴露による新生児体重の減少が示唆され、環境汚染物質の妊娠や胎児に与える影響について危惧されている。本研究の目的は、これらの環境汚染物質が、ヒト胎児発育に与える影響を胎盤の糖・アミノ酸輸送に焦点をあて分析することである。 【平成22年度研究実績】 環境省エコチル調査「パイロット調査」55症例の妊娠・分娩・胎盤情報を取得し、胎盤は新鮮凍結試料およびホルマリン固定試料を保存した。H.E.染色を用いたsyncytiotrophoblastの定量化を行った。syncytiotrophoblast容積は、胎盤機能(栄養素輸送)を反映する因子として重要であると考えられた。 妊娠末期の全9症例の母体静脈血および臍帯静脈血において水銀が検出された。水銀においては母体血中よりも胎児血中で濃度が高い傾向にあり、世代間濃縮が示唆された。また水銀は胎盤通過性が高いことも確認された。カドミウムは母体血や尿で検出されたが、臍帯静脈血では検出されなかった。カドミウムの胎盤通過性の低さが確認された。鉛、ヒ素や農薬(DDT、ペンタクロルフェノール、ピレスロイド剤)は、全ての生体試料において測定限界以下であった。 妊娠高血圧症候群および子宮内胎児発育遅延の胎盤では胎児低栄養に適応し、syncytiotrophoblastにおいてアミノ酸輸送蛋白の発現を増強させている可能性が示唆された。最新の研究において環境化学物質であるカドミウム関連ナノパーティクルの吸入は胎盤重量を有意に増加させることが指摘されており、これは母体のカドミウム関連ナノパーティクルによる胎児栄養障害に対する胎児自身の適応反応と考察されている。胎盤には環境化学物質・低酸素・低栄養などのストレスに反応してmTORシグナリング修飾を介してアミノ酸輸送蛋白発現などのレギュレーションが行われ胎児栄養障害に適応するメカニズムが存在することが推察される。
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