研究概要 |
平成21年度では、胎児期に大量のサイトカインに暴露されることで、新生児期の海馬機能に障害を与えるか否かについて、げっ歯類を用いて検証実験を行った。妊娠ラットに妊娠15日目から18日目まで擬似的なウイルス感染を誘導することが出来るPolyI:Cを4頭に投与した(4mglkg/day)ところ、3頭が流産した。そこで、投与日数を妊娠15日目と17日目の2日に減らし4頭に投与した結果、流産は起こらなかった。母体へのPolyI:C投与による胎児脳におけるサイトカイン・ケモカインの発現をprotein profile arrayによって調べたところ、CINC-1,CINC-2,LIX,L-Selectin,が大量に発現していた。次に正常分娩後、幼若期の仔ラット海馬について調べたところ、神経細胞の脱落やアポトーシスは起こらないが、海馬CA1領域におけるシナプス機能の低下とシナプス機能蛋白質(シナプトフィジン、GluR2/3)の発現量が低下していた。この結果から、母体の擬似ウイルス感染によって胎児の脳で強い免疫活性化が起こり、シナプス発達に障害が起こることが示唆された。 現在、妊娠中のインフルエンザ感染は母体自身の悪影響については認知されているが胎児への影響については不明な点が多い。今回の実験結果から妊娠中の母体のウイルス感染(特にインフルエンザなど)によって母体の強い免疫活性化が誘導されると胎児の脳において炎症が起こり、海馬シナプス機能発達を阻害することが推測されることから、母体のインフルエンザのどのウイルス感染によって胎児の脳神経発達に悪影響を与える可能性が示唆される。
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