近年、表皮のバリアに重要な角層細胞間脂質を輸送する蛋白質であるABCA12の機能欠損が最重症の遺伝性皮膚疾患・道化師様魚鱗癬の病因であることが解明された。魚鱗癬をはじめとする遺伝性角化症の治療は、現在までのところ、保湿剤の外用、角化症治療薬としてのレチノイドの内服、炎症を伴った場合はステロイドの外用、内服といった対症治療が中心であった。ABCA12の機能をさらに詳しく解析するとともに、病態の本質に沿った治療法の開発が望まれる。本研究では、細胞へのABCA12の補充を試み、脂質輸送が改善するか検討するため、次の実験を行っている。ABCA12リコンビナント蛋白質を調製するために、ヒトABCA12のcDNA配列をPCR法にて取得し、発現ベクターに組み込み、コンストラクトの構築を行った。構築されたコンストラクトを哺乳類細胞(293細胞)ヘカチオニックリポソームを用いてトランスフェクションし、発現の誘導を試みた。ABCA12の強制発現について、抗ABCA12抗体を用いたウエスタンブロッテイング法により解析を行うことで、ABCA12の強制発現を確認しているところである。現在、ABCA12の安定発現株の樹立を目指して、より効率よく発現する条件を検討している。また、ABCA12に対するsiRNAの設計を行い、5種類のsiRNA配列を得た。これらの配列を用いてABCA12が安定的に発現抑制されている細胞株の樹立について、検討を行っているところである。以上の事が明らかになることによって、ABCA12をタンパク質として調製するための原料を得ることができ、また、ABCA12が安定的に発現抑制されている細胞株の樹立によって、ABCA12の補充による脂質輸送の改善についての検討を行うことが出来る。以上の結果は、今後、ABCA12含有リポソームの調製と効果の検証において重要であり、病態の本質に沿った治療法の開発のために意義深い。
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