PI3K(phosphatidylinositol-3-kinase)のアイソフォームは下流分子のAktを介して、アポトーシス・細胞増殖、細胞周期、血管新生などの多くの生物学的現象に関与している。また、PI3Kとクロストークする分子の一つであるStat3(signal transducer and activator of transcription 3)は、Jakチロシン・キナーゼなどによりリン酸化を受け活性化される転写因子である。多くのヒト腫瘍で恒常的に活性化されていることから、細胞の増殖に大きな役割を果たしている。さらにStat3はメラノサイトにおいて、Mitfを介して、Bcl-2を制御しアポトーシスを抑制すると考えられている。 21年度、我々はCre-loxPシステムを利用して、Dctプロモーター下にCreを発現させたDct-CreトランスジェニックマウスとPTEN floxマウスおよびをStat3 floxマウス交配して、メラノサイト特異的PTENないしStat3ホモ欠損マウスを作製した。 そこで22年度の計画として、メラノサイトにおけるPTENとStat3の生理学的な役割を解析するため、これらマウスの生物学的特性を検討する。特にPTENの欠損はAkt系下流分子の活性化を惹起し、メラノサイトの細胞増殖能亢進やアポトーシス抵抗性の増強などに加えて、白髪抵抗性が獲得されることが予想される。これに対して、Stat3の欠損はメラノサイト幹細胞の恒常性維持を傷害し、早期に白髪化が生じるであろう。この研究戦略により、白髪化の分子基盤における新たな知見が得られるとともに、新規の白髪化予防戦略が創生されるものと期待される。
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