PI3KとStat3は多くの臓器において発癌関連遺伝子として最近見直されてきている。しかしながら、白髪化の発生・進展におけるこれら分子の生物学的役割を検討した報告は未だない。そこで我々は、白髪化の分子病態を解明するため、様々な遺伝子改変マウスを作成し、その生物学的特性を解析した。まず昨年度までに、Cre-loxPシステムを利用して、Dctプロモーター下にCreを発現させたDct-CreトランスジェニックマウスとStat3遺伝子にloxP配列を導入したStat3 floxマウスを交配して、メラノサイト特異的にStat3がホモ欠失になったDct-Cre Stat3 flox/floxマウスを作成した。さらに、Dctプロモーター下にCreを発現させたDct-CreトランスジェニックマウスとPI3Kを負に制御するPTENがん抑制遺伝子にloxP配列を導入したPTEN floxマウスを交配して、メラノサイト特異的にPTENがホモ欠失になったマウスを作成した。 今年度は上記マウスの生物学的特性を解析するため、上記のマウスに放射線照射の負荷を加えた後における体毛の色調変化を経時的に観察した。その結果、Stat3の欠失は野生型より白髪化が亢進していたものの、白髪化の程度は予想より軽度であった。そこで、Stat3の発現を免疫ブロットで検討したところ、Dct-Cre Stat3 flox/floxマウスでもStat3が完全に欠失していないことが判明した。すなわち、Stat3が少量ながら発現しているため、予想と異なる所見が得られたものと推察される。そこで現時点では、より効率よくStat3を欠失させるため、Dctとは異なるプロモーターを有するTyrosinase-Cre Stat3 flox/floxマウスを作成中である。
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