研究概要 |
A170タンパク質は酸化ストレス誘導タンパク質であり、その遺伝子ノックアウト(KO)マウスのフェノタイプは過食による肥満とインスリン抵抗性、脂肪肝、高レプチン血症を呈することが発見されている。我々はA170 KO胎児線維芽細胞がUVB照射に対して抵抗性でありアポトーシスが起きにくいこと、Bcl-2の発現が上昇していることを発見している。本研究課題では、A170がアポトーシスシグナルにどのように関わっているか、紫外線による皮膚発癌にどう関わるかを探ることを目的として以下の実験を行なった。まず、A170 KOとWTのMEFにUVBを照射しAnexinとPIの2重染色によるアポトーシスの程度を比較した。その結果、A170 KO細胞はアポトーシスが顕著に抑制されることが明らかになった。この現象は、WT細胞をsiRNA処理によりA170をノックダウンした細胞でも認められた。次に、アポトーシスの誘導に関わる様々なシグナル伝達因子の状態を、まずウエスタンブロットによりタンパク質レベルで調べた。その結果、KO細胞ではUVB刺激によるBax,caspase等のアポトーシス誘導因子のレベルが低下していた一方、アポトーシス抑制因子であるsrcやBcl-2などのレベルが野生型細胞と比べ著しく上昇していた。そこで次に、これらのアポトーシス抑制因子の発現に重要な転写因子であるStat3の状態について解析したところ、KO細胞において活性化亢進が認められた。これらのことから、A170はStat3の活性化を調節しており、欠損細胞内ではStat3の活性化が亢進することでアポトーシス抑制因子の発現が上昇し、その結果としてUVB刺激によるアポトーシスが起きにくくなっていることが明らかとなった。さらに、個体レベルでの解析からも、A170 KOマウスはUVBによる皮膚組織のアポトーシスを起こしにくいことが明らかになり、A170はアポトーシスシグナルを調節する重要な因子であることを、培養細胞、個体レベルの両面で明らかにした。
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