研究概要 |
汎発性強皮症は皮膚および内臓諸臓器の線維化、微小血管障害、免疫異常を特徴とする原因不明の全身性疾患である。我々はこれまでに、Fli1遺伝子の恒常的な発現低下が本疾患における皮膚線維芽細胞および血管内皮細胞の恒常的活性化に関与している可能性を見出した。本研究はFli1遺伝子の発現低下が正常皮膚線維芽細胞および正常皮膚血管内皮細胞の機能に及ぼす影響を明らかにし、また動物モデルを用いてFli1遺伝子の発現低下が汎発性強皮症の皮膚線維化および微小血管障害といった臨床症状の発症機序に関与している可能性について検討することを目的としている。本年度はFli1蛋白の転写後修飾(リン酸化、アセチル化、ユビキチン化)部位の同定およびその意義の検討、(1)正常血管内皮細胞におけるFli1遺伝子の機能の検討、および動物モデル(血管内皮細胞特異的Fli1欠失マウス)を用いたFli1遺伝子の発現低下の臨床的意義に関する検討、の2つテーマについて個別に実験を行った。 Fli1蛋白の転写後修飾(リン酸化、アセチル化、ユビキチン化)の検討について 予備実験の結果、Fli1はproteaosomal pathwayにより分解されることが明らかにされている。本年度はFli1のlysineをarginineに置換した18種類のmutant(既に作成済み)のprotein stabilityについて検討を行い、ユビキチン化が生じている可能性があるlysineの候補を絞ることができた。引き続き、その機能解析を行う予定である。 正常血管内皮細胞におけるFli1遺伝子の機能の検討 本年度は、human microvascular endothelial cells(HDMEC)をFli1 siRNAで処理し、血管新生に関与する遺伝子の発現量について検討し、PDGF-B, SIP_1,VE-cadherin, PECAM1の発現が減少し,MMP-9の発現が亢進することを明らかにした。これらのデータを基に、Fli1の発現低下が血管内皮細胞の機能に及ぼす影響を検討する予定である。具体的には、Fli1 siRNAで処理したHDMECを用いてmigration assay, apoptosis assay, cord formlation assayを行う。次に、同マウスを用いてwound healingの実験を行い、Fli1の発現低下が強皮症患者に認められる創傷治癒の異常にどのように関与しているかを検討していく。
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