従来よりマスト細胞はI型アレルギー反応のエフェクター細胞として知られているが、近年、自然免疫や獲得免疫の誘導や調節におけるマスト細胞の重要性が明らかにされてきている。細菌感染においては、マスト細胞由来のTNF-αやプロテアーゼなど様々な生理活性物質が細菌の排除に寄与していることが報告されているが、ウイルス感染におけるマスト細胞の生体防御への関与については明らかにされていない。我々は、人体にとって重要な病原体であるHerpes simplex virus(HSV)を用いて、HSV感染におけるマスト細胞の役割を解明することを目的とし、研究を行った。 マスト細胞欠損マウス(W/Wv)とコントロールマウス(+/+)の背部皮内にHSVを接種したところ、W/Wvは+/+と比較して皮疹や麻痺が重症化し、早期に死亡し、W/Wvの死亡率は有意に高かった。さらに、W/Wvの背部皮膚局所にマスト細胞を再構成することにより、その死亡率が低下した。尚、HSVを接種した皮膚におけるHSV感染価は、W/Wvの方が+/+より高値であった。 病理組織学的に、W/Wvでは局所の激しい炎症を認めたため、HSV感染皮膚のライセートを用いて、炎症性サイトカインの測定を行った。W/Wvの感染皮膚におけるIL-6は、+/+と比較し有意に増加していたが、TNF-aの差はみられなかった。一方、IL-10はW/Wvで有意に減少していた。 予想に反して、所属リンパ節のHSV特異的CTL数は、W/Wvと+/+で有意差は認められなかった。また、所属リンパ節中のCD8α+CD205+DCやregulatory T cellの数にも差はみられなかった。以上より、マスト細胞がHSV感染皮膚でのサイトカイン環境を調整し、致死的なHSV感染において、生体防御に重要な役割を果たしていることが示唆された。
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