昨年度にひきつづき、汎発性強皮症(SSc)の病変部皮膚におけるVEGFシグナルや低酸素マーカーの発現を検討したが、その過程でM2マクロファージのマーカーであり低酸素やVEGFとの関連も示唆されているCD163の血清濃度が強皮症患者において有意に増加している事を見いだした(Nakayama Y et al. Rheumatol Int 2010). さらに我々は血清adiponectin濃度がdcSSc患者で有意に減少し、線維化の程度と相関することを発見した(Arakawa H et al. Exp Dematol in press)。よってadiponectinは本症における低酸素状態の維持に関与している可能性がある。 次に低酸素マーカーである血清CA9濃度は強皮症の前駆状態であるscleroderma spectrum disorder (SSD)患者で健常群と比べ有意に減少していた。またCA9低値例ではdiffuse cutaneous SSc (dcSSc)が多くみられた(Makino K et al. in submission)。同様に、我々はSSD患者群ではhypoxia inducible factor3などをtargetとするmicroRNAであるmiR-29aの血清濃度が有意に低下している事を報告した(Kawashita Y et al. J Dermatol Sci)。よって、CA9およびmiR-29aは本症の前駆状態において既に減少しており、本症のトリガーとなっている可能性があると考えられた。 以上より、CA9およびmiR-29aが強皮症のトリガーとして機能している可能性、本症においてCD163の増加およびadiponectinの減少が低酸素状態の維持に関与している可能性が示された。 一方、低酸素刺激下での線維芽細胞での線維化関連遺伝子の誘導やマウスモデルの作成については、様々な条件を設定して何らかの変化を観察したいと考えていたが、これまでに安定した結果を得られておらず、今後さらなる研究が必要であると思われる。
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