ヒト悪性黒色腫(メラノーマ)の臨床では、「脳」「肝臓」「肺」「リンパ節」への臓器転移がしばしば観察される。しかしながらこのようなメラノーマの臓器選択的な転移能の獲得について不明な点が多い。とりわけ脳転移研究は、「脳」に転移する細胞株を実験的に作ることが困難であったため、脳転移を引き起こす分子群についての解明は困難を極めていた。ルシフェラーゼ発光を起点としたマウス生体内イメージング技法と高周波型超音波画像解析の組み合わせにより、重症免疫不全(SCID)マウスへの左心室腔内への正確な細胞接種が可能になり、脳に親和性を持つヒトがん細胞株が同定できる。本研究では、上記の技術を利用し、高脳転移メラノーマ細胞株を分離することに成功した(SK-MEL-28-Br2、MeWo-Br2)。さらに脳転移特性をもつ乳がん細胞株MDA-MB-231-Br2細胞を樹立した。SCIDマウスにおける生体内イメージングにより、これら細胞特性の確認試験を実施した。脳への転移能の低い細胞株としてSK-MEL-2とMM-RU細胞を対照に、それらにおける遺伝子発現の解析をアジレント社製マイクロアレイ法にて実施した。これらメラノーマと乳がんに共通して発現が2倍以上高い遺伝子413個、逆に発現が2倍以上減弱している遺伝子424個を同定した。1)乳腺細胞と色素細胞における特性の違い、2)メラノーマで明らかにされているシグナル伝達経路の異常、RT-PCR法による遺伝子発現による実質的な違いなどに配慮し、これらの候補遺伝子からの更なる絞り込み検索を行ないたい。
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