ヒト悪性黒色腫(メラノーマ)の臨床では、「脳」「肝臓」「肺」「リンパ節」への臓器転移がしばしば観察される。しかしながらこのようなメラノーマの臓器選択的な転移能の獲得について不明な点が多い。とりわけ脳転移研究は、「脳」に転移する細胞株を実験的に作ることが困難であったため、脳転移を引き起こす分子群についての解明は困難を極めていた。ルシフェラーゼ発光を起点としたマウス生体内イメージング技法と高周波型超音波画像解析の組み合わせにより、重症免疫不全(SCID)マウスへの左心室腔内への正確な細胞接種が可能になり、脳に親和性を持つヒトがん細胞株の樹立を試みた。これまでに、高脳転移メラノーマ細胞株を分離することができた(SK-MEL-28-Br2、MeWo-Br2)。これら高脳転移メラノーマ細胞株は、1)細胞接種後30minから24hr以内のイメージング解析では脳への有意な親和性は観察されなかったが、15日以降に顕著な転移性増殖が認められること、2)親株との比較においてin vitroで再構築されたラット血液脳関門(BBB)を効率よく浸潤透過しうることが判明した。さらに、アジレント社製マイクロアレイ法による遺伝子発現の解析を進めた結果、高脳転移メラノーマ細胞株で2倍以上高い遺伝子413個の中に、TGF-beta受容体2、LMO7、PDE4Dなどの上皮間葉転換(EMT)にかかわる遺伝子の発現が高いことが判った。これらの結果から、少なくともメラノーマの脳転移には細胞のEMT化が関与していることが示唆された。B16-FOメラノーマ細胞を用いた同系移植による動物接種実験では、B16-FOメラノーマ細胞は明らかな脳親和性を示さなかったため、上記の候補遺伝子を強制発現させた同系移植モデルによる絞り込み等を行なう必要があると考えられた。
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