尋常性天疱瘡(PV)は表皮細胞間接着分子であるデスモグレイン3(Dsg3)に対する自己抗体により誘導される自己免疫疾患である。これまでに我々はin vivoで抗Dsg3抗体産生とPVの表現型を誘導できる複数のDsg3反応性T細胞クローンを樹立し、そこがらT細胞受容体(TCR)α鎖、β鎖のcDNAを単離することに成功している。これらのTCRをレトロウィルスベクターにより野生型C57BL/6マウスのCD4(+)Tリンパ球に導入したところ、その抗原特異性を再構築することが出来た。再構築されたDsg3反応性T細胞のin vivoでの反応を調べたところ、PVの表現型を誘導することはなかったが、それとは全く異なる、耳、顔面、足底、尾部に鱗屑、痂皮を付着した湿疹、皮膚炎様の皮疹が認められた。これらの反応は異なるエピトープを認識する二つの独立したクローン由来のTCRを導入した際にも認められた。また、組織解析の結果、病変部では表皮へのリンパ球の浸潤と表皮細胞の傷害が認めちれた。これらの炎症所見はDsg3が発現している口蓋上皮、食道上皮、皮膚において認められ、Dsg3を発現していない小腸、大腸、肝臓では認められなかった。以上の結果から、PVの自己抗原に対する反応性を規定するTCRをレトロウィルスベクターにより導入したT細胞では、表皮抗原Dsg3に特異的な細胞性免疫による皮膚炎を誘導することがわかった。炎症細胞浸潤を伴う自己免疫性水疱症として腫瘍随伴性天疱瘡(PNP)が知られているが、その発症機序は不明である。また、自己免疫性水疱症と炎症性皮膚疾患との関連を示すデータはこれまでにない。今後はこれまでに認められた表現型についてさらに詳しく解析を行い、Dsg3に対する自己反応性によって規定された皮膚における炎症反応を調べることにより、自己免疫性水疱症の病態解明につながる知見を得ることを目指したい。
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