尋常性天疱瘡(PV)は表皮細胞間接着分子であるデスモグレイン3(Dsg3)に対する自己抗体により誘導される自己免疫疾患である。これまでに我々はin vivoで抗Dsg3抗体産生とPVの表現型を誘導できる複数のDsg3反応性T細胞クローンを樹立し、そこから単離したT細胞受容体(TCR)α鎖、β鎖をレトロウィルスベクターにより野生型C57BL/6マウスのCD4(+)Tリンパ球に導入すると、その抗原特異性が再構築されることを証明した。再構築されたDsg3反応性T細胞のin vivoでの反応を調べたところ、PVの表現型とは全く異なる、表皮へのリンパ球浸潤を伴う皮膚炎(interface dermatitis)が誘導された。これらの炎症所見はDsg3が発現している組織においてのみ認められ、二つの異なるTCRを導入したDsg3反応性T細胞によって誘導し得た。誘導された皮膚炎と炎症性サイトカインIFN-g、IL-17との関連を調べるため、これらのTCRをIFN-g、IL-17欠損T細胞に導入したところ、IFN-g欠損T細胞では皮膚炎が誘導されなかった。以上の結果から、Dsg3反応性を規定するTCRを導入したT細胞が抗原特異的な、IFN-g依存性の細胞性免疫による皮膚炎を誘導することがわかった。抗Dsg3抗体産生と炎症細胞浸潤が同時におこる自己免疫性水疱症として腫瘍随伴性天疱瘡(PNP)が知られている。また、様々な炎症性皮膚疾患において、皮膚に浸潤するT細胞が皮膚の自己抗原を認識している可能性があることが知られている。我々の研究成果は、これらの皮膚疾患の発症機序におけるT細胞の役割を、特定のTCRによって抗原特異性が担保されたT細胞を用いて解析することを可能とする有用なツールになると考えられる。
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