本研究では、各種sPLA_2アイソザイムの遺伝子改変マウス(過剰発現マウスおよび欠損マウス(TgおよびKO))を用いて皮膚生理機能に焦点を絞り網羅的に比較解析することを目的としている。特に初年度についてはIIF型sPLA_2とX型sPLA_2に注目して解析をおこなった。 IIF型sPLA_2は表皮角質屑に発現しており、基底層および毛包には発現していなかった。この酵素のKOでは、対照と比較すると表皮の厚さは薄く、表皮角質層は機械刺激に対して脆弱であった。皮膚表面の超微形態を観察するとKOの表皮形成は不完全であり、表皮における水分保持能は低下していた。マウス薪生児の皮膚からケラチノサイトを単離しin vitroで分化させると分化マーカーのケラチン1の発現が増加するが、KOから単離した細胞ではケラチン1の増加が認められないことからIIF型sPLA_2はケラチノサイトの分化に関与することが示唆された。一方、マウスに接触性皮膚炎を引き起こすと表皮の肥厚に伴ってIIF型sPLA_2の発現が増加したが、KOに適用すると表皮の肥厚が減弱した。IIF型sPLA_2-Tgでは表皮の肥厚などの皮膚病態に関連する表現型が認められること、ヒトの乾癬および編平上皮癌といった病態の表皮部にこの酵素が強く発現していることから、IIF型sPLA_2の過剰発現が皮膚の病態生理機能に関連があることが示唆された。 一方、X型sPLA_2は体毛の成長期に発現が認められ、毛包の外根鞘に局在している。この酵素のKOを用いて毛包の超微形態を観察するとの外根鞘は対照と比較すると薄かったことから、X型sPLA_2は体毛の形成に関与することが示唆された。 以上の結果から、IIF型sPLA_2は表皮角質層にX型sPLA_2は毛包の外根鞘に局在しており、各々のsPLA_2が局所において違った生理作用を示すことが示唆された。次年度においてはこれらの現象について分子レベルでの解析を進めていく。
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