研究概要 |
気分障害の治療を巡っては、新規抗うつ薬の開発や非定型抗精神病薬の併用療法など、多様な選択肢が出現したにも関わらず、寛解率そのものは必ずしも向上しておらず、依然として約20%が薬物治療に対して治療抵抗性を示している。治療抵抗性気分障害の病態メカニズムに関する研究は、大きく立ち遅れていると言わざるおえないのが現状である。本研究では、治療経過中の双極障害例を急速交代型、非急速交代型に分けて、脳MRI検査と併せて、動脈硬化因子の定量評価を行うことで、治療抵抗性気分障害の病態生理学的背景について検討を行った。先ず、得られたMRIデータについて、Voxel-Based Morphometry (VBM)を用い、治療経過中の双極障害例を急速交代型、非急速交代型に分けて、健常群と局所灰白質体積に関し比較検討を行った。急速交代型群と健常対照群の全脳比較を行った結果、前部帯状回~前頭前野腹側内側部、海馬傍回、島において、急速交代型群に有意な灰白質体積の減少が見られた。非急速交代型群と健常対照群の比較では、小脳および橋において、非急速交代型群に有意な灰白質体積の減少が見られた。ブロードマン分類10,11,47領域に焦点を当てた検討では、前頭前野腹側内側部において、急速交代型群の有意な灰白質体積の減少が見られた。今回の検討により、前頭前野腹側内側部の障害が、頻回の治療抵抗性気分障害エピソードの生成に、深く関与している可能性が示唆された。また末梢採血検査では、血糖値や血漿インスリン濃度などインスリン抵抗性指標と治療抵抗性との関連は見出すことができなかったが、対象数も限られていることから、今後さらに症例を増やして検討を行ってゆく必要がある。
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