自閉症スペクトラム(ASD)者39名、定型発達者15名の脳形態、脳内生化学代謝情報をMRI、MRスペクトロスコピー(MRS)の技法を用いて測定した。ASD者と定型発達者間での脳体積の比較では、ASD群で有意に両側視床の体積が減少していた。一方、小脳体積の比較では、先行研究に反して有意な差を認めなかった。MRSの解析では、ASD群の右内側側頭葉領域でNアセチルアスパラギン酸(NAA:成熟神経細胞の指標)の有意な低下を認めた。 また、ASD者150名、定型発達者600名より、唾液DNA収集キット(Oragene)を用いてDNAを収集し解析したところ、トリプトファン水酸化酵素2(脳内のセロトニンを合成する)遺伝子(TPH2遺伝子)とASDの間に有意な関連が認められた。また、セロトニン・トランスポーター遺伝子(5-HTTLPR)、セロトニン1A受容体遺伝子(5-HTR1A)、セロトニン2A受容体遺伝子(5-HTR2A)とASD者の脳体積、脳内生化学代謝情報との関連を解析した結果、5-HTR1A遺伝子のGly272Asp多型をホモで持つ群において、両側視床の体積が有意に低下していた。また、5-HTTLPR遺伝子のS多型をホモで持つ群は、右内側前頭前野におけるNAAが有意に低下していた。 小児自閉症評価尺度-東京版(CARS-TV)で測定した臨床症状と、ASD者の脳体積、脳内生化学代謝情報との関連を解析したところ、視床の体積減少と「人との関係」の障害の間、および右内側側頭葉におけるNAAの低下と「聴覚反応」の障害・全体的な重症度との間に有意な相関を認めた。 上記の成果の一部を第50回児童青年精神医学会にて発表した。
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