自閉症スペクトラム障害(ASD)は、乳幼児期に顕在化する生来の発達障害であるが、その生物学的診断マーカーについては未だ解明されていない。我々は、ASDの中間表現型として、脳画像(脳形態、脳内生化学代謝)や臨床症状を用いて、疾患感受性遺伝子として想定されているセロトニン関連遺伝子との関連を調査した。その結果、(1)ASD者では右内側側頭葉(海馬-扁桃体)領域において神経発達障害を認め、この障害の程度はASD各サブタイプ間によって異なり、ASDの重症度に寄与している可能性がある、(2)ASD者では視床の萎縮を認め、この萎縮はASDの臨床症状の一つ「人との関係」に関連している、(3)5-HTTLPR遺伝子S・L多型と5-HTR1A遺伝子C(-1019)G多型はASDの様々な臨床症状に関与している可能性がある、(4)5-HTTLPR遺伝子多型は、ASD者の右内側前頭前野の神経発達障害に影響を与えている可能性があることを明らかにした。これらの遺伝子により影響を受ける中間表現型はASDの生物学的診断マーカーになり得るものと考えられた。
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