バルプロ酸の作用機序および中枢神経系副作用(Reye症候群などの代謝性脳症やパーキンソン症候群など)のメカニズムを探るため、ラット新鮮脳切片に対してdynamic positron autoradiography technique (dPAT)を用いた[^<18>F]2-fluoro-2-deoxy-D-glucose ([^<18>F]FDG)取り込み実験およびテトラゾリウム塩WST-1を用いた比色分析法によるミトコンドリア機能の測定を行い、バルプロ酸による脳内代謝活動(グルコース代謝、ミトコンドリア機能)への直接的な影響について評価した。その結果、10mM以上のバルプロ酸を投与した場合、対照群に比べ[^<18>F]FDG取り込みが増加した。テトラゾリウム塩WST-1は、ミトコンドリアの呼吸鎖に属する脱水素酵素(succinate-tetrazolium reductaseシステム)により還元され、水溶性ホルマザン色素を生じる。この発色を比色定量することにより、バルプロ酸による脳切片のミトコンドリア機能の変化を測定した。バルプロ酸およびWST-1を含む灌流液で脳切片をインキュベートし、組織中の発色を分光光度計で測定した。その結果、30mM以上のバルプロ酸を投与した場合、ミトコンドリア機能が対照群に比べて有意に低下した。以上の結果から、バルプロ酸によりミトコンドリアでの好気的糖代謝が低下したため、代償的に嫌気的糖代謝が亢進したと考えられた。これら脳内代謝活動の変化が、バルプロ酸の作用機序および中枢神経系副作用(Reye症候群などの代謝性脳症やパーキンソン症候群など)の発症機序に何らかの形で関与することが想定された。
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