バルプロ酸やリチウムといった気分安定薬は、躁うつ病をはじめとする気分障害の代表的な治療薬である。これら気分安定薬の作用機序として近年、glycogen synthase kinase 3β (GSK3β)の阻害効果が注目されている。そこで我々は、レンチウイルスシステムを用いたin vivoでのRNA interference (RNAi)によるGSK3β阻害の抗うつ様効果を検討した。マウスに対して抗GSK3β short hairpin RNA (shRNA)を誘導するレンチウイルス液を、気分障害との関係で注目されている脳部位の一つである海馬歯状回に投与した。どのRNAも阻害しないscrambled shRNAを誘導するレンチウイルスを投与したコントロール群と比較すると、強制水泳試験および尾懸垂試験において無動時間が短縮し、GSK3β阻害の抗うつ様効果が観察された。免疫組織化学法を用いて抗GSK3β shRNAによるGSK3βの発現抑制を確認したところ、特に歯状回顆粒細胞下層でのGSK3β発現抑制が認められた。以上より、気分安定薬の作用機序には歯状回におけるGSK-3βの持続的な抑制が関与している可能性が示唆された。
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