昨年度に引き続き、当研究機関に入院する患者のうち、米国精神医学会の診断基準における大うつ病性エピソード(大うつ病性障害および双極性障害)を満たす患者7人に対して電気けいれん療法(ECT)を行った。その際にECT前、ECT後1週、3ヶ月の3時点において、うつ症状評価のために17項目ハミルトンうつ病評価尺度およびベック抑うつ質問票、認知機能評価のためにMMSE (Mini-Mental State Examination)および生活健忘チェックリスト、脳血流SPECT (Single Photon Emission Computed Tomography)を行った。脳血流SPECTは核種99mTc-ECD(ニューロライト注射液 第一)を用い、e-ZIS (easy Z-score Imaging System)による画像解析を行った。 昨年度に引き続き研究結果の解析と検討を行うため、関係学術集会に出席して本研究に関わる学術発表を行い、専門家らと本研究の解析方法について議論した。 研究期間中にまとめられた結果として、対象患者は大うつ病性障害7人、双極性障害5人の12人であり、年齢67.8±12.0歳であった。ハミルトンうつ病評価尺度はECT前後で22.0±5.43から9.58±5.42に改善し、MMSEは24.5±5.56から25.2±7.05と変化しなかった。刺激量設定を閾値3-4倍とした3人に限定すれば、MMSEは27.7±2.05から29.3±0.47に改善した。(平均±標準偏差)脳血流SPECTについては前述の12人の患者のうち9人でECT前、1週後、3ヶ月後の測定ができており、パトラックプロット法による平均大脳血流量はそれぞれ41.49、41.51、40.17ml/100g/minであり左右差なく、ECT3ヶ月後にやや低下した。局所血流量については左右合わせて24ある関心領域毎に解析し、右レンズ核領域でECT3ヶ月後に低下した。 以上より、片側性ECTはうつ病の治療として従来の両側性に比べて劣らない治療であるが、認知障害が両側性と同様に起こりうると考えられた。しかしながら刺激量設定に更なる検討を加えることで認知障害への有害作用を軽減できる可能性が示された。 ECTが脳血流に与える影響については、ECT後3ヶ月の血流が治療直前後とは異なることなどが示唆されたが、更なる追試、考察が必要である。
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