本研究では、PET研究で捉えられた自閉症患者の脳内でセロトニントランスポーター(SERT)密度が低下しているという知見を、自閉症死後脳を用いて検証した。研究にはAutism Tissue Program(プリンストン、米国)、NICHD Brain and Tissue Bank for Developmental Disorders(ボルチモア、米国)より取得した自閉症死後脳サンプルを用いた。計測部位は、PET研究で自閉症の症状の重症度とSERT密度低下の相関が最も強い帯状回とした。 リアルタイムPCRによって帯状回のSERT mRNAの発現量を計測したところ、自閉症群と対照群とで発現量に有意差は認められなかった。従って、SERT密度の低下にはmRNA転写の制御機構は関与していないことが示唆された。続いて、同じサンプルを用いてウエスタンブロットを行い、SERT蛋白の発現量を検討したが、自閉症群と対照群の発現量に有意差は認められなかった。SERT蛋白は通常細胞膜に存在しているため、膜蛋白分画抽出キットを用い細胞質分画、全膜分画、細胞膜分画を抽出し、SERT蛋白の発現量を自閉症群と対照群とで比較検討したが、両群で有意差は認められなかった。 PETトレーサーは、生体内では細胞表面、すなわち細胞膜に発現しているSERT蛋白に結合する。従って我々は自閉症では神経細胞膜に発現しているSERT蛋白が減少しているという仮説を立てたが、本研究では自閉症群、対照群間のSERT蛋白発現量の有意差を見いだせず、この仮説を立証することが出来なかった。細胞膜分画でも差がなかったことから、トランスポーターのinternalizing等の機構が介在している可能性があり、自閉症脳内でのSERT密度低下の病態生理についてはさらなる検討が必要であると考えられる。
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