統合失調症の症状の一部に抗精神病薬が有効であることから、この疾患の病態形成にドパミン神経伝達の異常が関与していることは明らかである。しかし、この統合失調症のドパミン仮説を直接的手法で検証した報告は極めて限定されたものしかない。その大きな理由は、死後脳での証明が困難なことにある。死後脳の多くはドパミン拮抗薬の服用経験のある統合失調者から得たものであり、従って、死後脳において、統合失調症の病態を忠実に反映するドパミン神経の形態的機能的変化を捉えることは難しいからである。現時点では、神経イメージングがこの問題を解決する唯一の方法である。 本研究ではこれまでに、未治療の統合失調症者11名と、年齢、性別、教育歴を一致させた健常対照者8名を対象に、ドパミン・トランスポーター密度および、活性型ミクログリアをポジトロン断層撮影(PET)を用いて定量した。統合失調患者の精神症状はPANSSで評価し、被験者全員の認知機能はWAIS-IIIにて評価を行った。これまでの結果から、統合失調症では健常対象者に比べ、線条体のドパミン・トランスポーター密度は低下傾向にあり、また、全脳の活性型ミクログリア活性の上昇傾向が認められた。今後は、さらに症例数を増やし、これらのPET所見と臨床症状や認知機能障害との関連性を探り、統合失調症の病態形成に果たす「脳内免疫反応過程-ドパミン神経の機能変化-症状形成」の連環を明らかにする。
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