本年度はストレス応答を制御するHPA系に着目した自殺関連遺伝子として、既にHPA系制御との関連が報告されているFKBP5遺伝子の3つの一塩基多型に着目して自殺企図者との相関研究を行った。また相関研究の検出力を高めるためサンプル収集に努め、自殺企図者DNAを300検体近く収集した。FKBP5と自殺との相関は認められなかったため、自殺の候補遺伝子として有力と考えられていたが世界的に追試されていない遺伝子について、改めて詳細な解析を行った。自殺者においてはセロトニン神経系の生化学的な変化が報告されているか、その律速合成酵素であるtryptophan hydroxylase(TPH)について、神経系での優勢な発現が確認されているTPH2と自殺との相関を解析した。15のtag SNPを用い、ハプロタイプ解析を行ったが、有意な相関は認められなかった。自殺の背景疾患として重要である統合失調症において、TPH2に加え、TPH1についてもtag SNPを用いてハプロタイプ解析を行ったが、いずれの解析においても有意な関連は認められなかった。自殺と相関が報告されているRGS2遺伝子多型と不安障害との相関研究も行ったが相関は認められなかった。 自殺にアルコール乱用、依存症の合併が高頻度に認められる。アジア人で認められる代謝酵素の多型は、アルコール依存症の発症に関与することが知られるためアルコール代謝に関わるADH1B及びALDH2における機能的多型と自殺との関連を調べた。ALDH2の非活性型遺伝子多型の頻度が男性自殺者で有意に低いこと、さらにアルコール依存症との関連が報告されているADH1Bの活性型遺伝子多型とALDH2の活性型遺伝子多型の組み合わせが、男性自殺者で対照に比べ10倍高いことを見出した。つまり飲酒行動にプロテクティプに働く遺伝子型は自殺のリスクが低いことを示している。これは自殺行動を制御するマーカーとして有用な可能性があり、さらなる追試が必要と考える。
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